尾形君の絵画に触れて感じたこと

かつて見た記憶のある景色と今現在が混じり合うかのような不思議な感覚。視線は揺れ動いて、キャンバスの上の色彩や形をまさぐる…見る事の体験、絵との出会い。

尾形君の作品をはじめに離れたところから眺めてまず目に映るのは、単一に塗り込められた色の面とわずかに見られる形のようなものです。やがて作品に近付くにつれて、落ち着いた彩度の画面のそこここに不意に現れたかに感じられる「形のようなもの」が徐々に具体的な細部として見えてきて、そこに何か具象的なものが描写されているのか、又は抽象的なフォルムが描かれているのかわからないままに、曖昧な中間地帯に放り込まれます。それでもじっとその形や形の痕跡のようなものを見ていると、何か記憶をくすぐるような具体的な景色が浮かび上がってきたりするのですが、それも次には泡のように消え去ってしまいます。近寄ると、しっかりした筆の力でのせられた絵具の物質としての感触が見えてくるからです。そしてまた離れて見ると、先程見た細部の筆使いが色面に囲まれながらも静かに輝き、再び景色の像を結ぶかのように迫ってきます。

離れて見ることと近くで見ることの往復によって起こる変化のスリリングな体験を尾形君の作品はもたらします。それはもしかすると、絵を見ること、そしてそもそも、絵を描くこと、によって起こるはじめの出来事かも知れず、作品を制作する時、尾形君はいつもそれにそっと出会っているのではないでしょうか。

吉田 昇(アニメーション美術監督)
Noboru Yoshida (Animation Art Director)

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